2008年2月 6日
人間学
歯科関係以外で私が一番愛読している本は、ロゴセラピーの創始者であるビィクトル・フランクルの「夜と霧」です。次はいくつかありますが、高島 博先生の「人間学」も愛読書の一つです。高島先生は「人間学」の中で、「一たび医学が人間性を見失いだすと、医師が診療するのは苦しんでいる人間ではなくて、人間存在を離れた病気だけということになる」と、現代の物質優先主義的見方に警鐘しています。私も歯科医療の世界に同様な危惧を感じています。
歯科医は、口という体の狭い一器官を専門に治療します。ですから局所的に考えがちです。そして入れ歯や冠などの代用臓器を用いて、物質的に修復しますから物質優先主義的見方に偏りがちです。私は幸いにも口腔外科が専門でしたから「全身の中での口腔」を考える訓練を受けられました。その私でさえロゴセラピーに出会わなければ、今のように患者様を苦しんでいる人と見ないで、患者様の虫歯や歯槽膿漏ばかりに関心が集中したと思います。
ある親知らずを抜くことを希望された患者様が来院されました時、彼女は私の治療方針の説明に安心したのではなく、私の会話の中のユーモアにホッとしたようです。ユーモアの大切さも高島先生の「人間学」から学びました。治療は真剣にならざる負えませんが、できる限りユーモアの溢れる診療姿勢で患者様をホッとさせたいと願います。
2008年2月 3日
ターミナル・ケア
患者様とお話していますと、私と会う前に診療をうけた歯科医者と違った印象をもたれる多くの方がいらっしゃいます。一番の理由は私が患者様を「単なる物=肉体」として見ているのではなく、「人=心をもった存在」として感じているからだと思います。大学病院時代にターミナル・ケアにたずさわったことで学ぶことができました。
ターミナル・ケア(Terminal Care)とは、末期がんなどに罹患した患者に対する看護のことで、終末(期)医療、終末(期)ケアともいわれています。主に延命を目的とするものではなく、身体的苦痛や精神的苦痛を軽減することによって、人生の質を向上することに主眼が置かれ、医療的処置加え、精神的側面を重視した総合的な措置がとられます。
私は、ターミナル・ケアの思想が特殊なものではなく一般医療にも適用するものだと考えています。特に、苦痛が伴う歯科医療においては精神的側面を重視した総合的な措置が必要だと思います。技術優先の現代医療において、少しでも人間回復を目指した歯科医療を行いたく希望します。
2008年1月31日
インプラントの予後
患者さまからインプラントの予後に関しての御質問もありましたので、ここに私の考えを簡単に書いてみます。
私の臨床では、25年前に手術したインプラントが現在も問題なく機能しています。インプラントの予後に関しては、患者様側の諸条件と術者側の技術レベルが複雑に関与していますので簡単にはいえませんが、通常の条件下では20年から30年は機能可能だと考えています。
インプラントを長期間機能させる術者側の一番大きい要因は、インプラント植立の手術技術ではなくて、咬合を安定させる技術レベルの有無にあると思われます。インプラントを用いた咬合再構成は、インプラントにかかる噛み合せの圧力をいかに垂直にさせるかなど、非常に熟練を要します。インプラントに側方圧をかける歯軋りなどを解除する咬合調整技術などは、術者側の必要最低限度の技術だと考えています
2008年1月28日
舌の裂傷
以前にかかった某歯科医院で舌を切られてから歯科医院に怖くていけなくなった患者様が来院されました。
通常、歯を削る時に水が出ますのでどうしても舌が動きやすくなります。そのために舌を傷つける可能性がありますので、鏡などでガードする必要があります。
この患者様は、歯科恐怖症で体が硬直して鼻呼吸が困難になり、どうしても口呼吸しがちなために、通常の水平診療の姿勢で歯を削ると舌を傷つけやすい方でした。しかし、顔を横に向けて喉に水がいかない立位診療の姿勢で削りますと、簡単に虫歯の処置が終わりました。患者様も非常に喜ばれました。
大学病院時代、舌の裂傷のため救急車で運ばれてきた患者様の処置に初めて参加した時のことです。大学院1年生の何もわからないとき、たまたま研究室に遅くまでいて佐藤廣前教授(当時は助教授)に助手をするように命じられました。もたもたする私を怒鳴りながら半分切断された舌を手際よく縫合する佐藤廣先生の技術は素晴らしいのもでした。患者様も御無事でした。医療者の不注意による事故に関して、若かった私には良い教訓・警告でした
治療中の事故に関しては、常に慢心することなく注意しています。そして、50歳の年齢になりましたので身体的にも精神的にも診療に当たっては、ベスト・コンデションで臨めるように心掛けています。
2008年1月25日
三叉神経痛
根の治療を某歯科医院で6ヵ月も続けたのに痛みが取れなくてお困りの患者様が来院されました。どうしても痛みがとれなのでその歯を次回抜く予定になっていました。その歯を精査したところ、その痛みの原因が根尖の化膿ではなく三叉神経痛による疑いが強まりましたので、脳神経科の受診をお勧め致しました。脳神経科の受診の結果、三叉神経痛が原因の歯の痛みであることが判明しました。
三叉神経痛とは、顔が痛くなることから、よく顔面神経痛と誤って呼ばれますが、正確には三叉神経痛といいます。額、目、頬、顎そして歯茎が痛くなります。神経の走行は、三叉神経が脳から出た後、3つの枝に分れることから、三叉神経と呼ばれます。その3つの枝は、それぞれが三叉神経の第1枝、第2枝、第3枝と呼ばれます。第1枝は、額、目、鼻梁などの知覚に関与し、その出口は眉の付近にあります。第2枝は、上顎、頬、上口唇などの知覚に関与し、その出口は頬の上付近にあります。第3枝は、下顎、下口唇などの知覚等に関与し、その出口は下顎にあります。以上の枝に沿って痛むのが三叉神経痛です。第1枝の神経痛だと額や目が痛くなりますし、第2枝の神経痛だと上顎(うわあご)の歯や頬が痛くなります。第3枝では下顎(したあご)や下顎の歯が痛くなります。三叉神経痛には2通りあります。一つは瞬間的に痛さが訪れるもの、もう一つは痛さが持続的であるものの2つです。前者の場合、御飯を食べるとき、会話をするとき、歯を磨く時などに瞬間的に激痛が走りますし、後者の場合慢性的な鈍痛が広範囲に続きます。
この患者様の歯は、危うく抜かれるところでした。診断に当たっては、先入観に捕われずに患者様の訴えに耳を傾けて、広範囲に症状を捉えて精査する必要を痛感させられました。